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Article

避けられないものに対処する -米国及び欧州における標準必須特許の近年の進展-

December 2018

AIPPI Japan

By Ming-Tao Yang; Jinwoo Kim

自律運転,人工知能,ブロックチェーン,ビッグデータ,モノのインターネット(IoT)などの共通項目は何であろうか?これらは既存の価値 を打ち砕き,進化し続け,そして私たちすべて   に影響を与える。これらは同時に,技術の「規格(standards)」-各デバイスの相互運用性を確立するための共通的な取決め- に依存している。

「規格」とは,複数のマシン及びソフトウェアシステムの間で,相互通信及び協調作業を可能とする,統一された技術的な取決めを意味する。「規格」は私たちの自動車を充電及び運転し,データを保管し,金融口座を確認し,機器をプログラム し,思い出の瞬間を記録に残す。統一適用され広範に使用される「規格」は,同時に重要な特許によってもカバーされており,特許紛争が不可避となり,その費用も増加している。

しかし各企業には,規格から生じる紛争に対処し,訴訟リスクを評価し,情報に基づく決定を行うためのツールが存在する。近年の米国及び欧州 におけるいくつかの裁判所判決は,規格の使用に伴う負担を軽減するチャンスを示し,更にロイヤ リティ料率及びライセンス条項を決定するための枠組みを提供するものといえる。さらに,日本の特許庁は,近年,標準必須特許(SEP)のライセンスに関するガイダンスを提供するため,「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」を公開した。

SEP の所有者は, 公平, 合理的, 非差別的(FRAND)条項,又は合理的かつ非差別的(RAND)条項(以下,包括的に「F/RAND」条項と称する) に基づき標準必須特許のライセンス許諾を進めて   きた。しかしF/RAND 条項を遵守する場合であっても,標準必須特許の所有者とその規格の実施者との間で,F/RAND 条項が何を意味するのかについて見解の相違が生じることが多い。標準必須 特許権者が提示するF/RAND 料率と,裁判所が適切と定めるF/RAND 料率との間には,大きな差が生じている。近年の裁判所の決定では,標準必須特許及び標準必須特許ライセンスに特有の事情があることを認め,F/RAND    条項だけでなく,何が標準必須特許の不適切な権利行使に該当するのかに関しても追加的な指針を示している。 現在,規格実施者は,これまで以上に恵まれた環境で,余分な必要性に迫られることなく,純粋に F/RAND ライセンス交渉を進めることができる。F/RAND 条項は拘束力を持つ契約であることから,現在の規格実施者は,規格に特有の紛争に対 して追加的な防御手段を備えており,これによっ て差止の警告,管理上のコスト及びリスクが最小限化され,更に損害賠償までも可能となっている。

Ⅰ.標準必須特許の訴訟分野が拡大する中で,F/RAND 条項は標準必須特許権者と規格実施者との間で競合する利益の均衡を図っている

通信網が発達した現代世界では,ビジネスにおいて何らかの規格を実施することなく製品を販売することが,ますます困難になっている。自社技

料率比較(TCL v. Ericsson)

 

図1:標準必須特許権者の提示と裁判所決定の料率との対比

図2:標準必須特許権者の提示と裁判所決定の料率との対比

術のみを用いた製品の提供は可能であるが,そ の一方で相互接続性及び相互運用性が著しく制限される。たとえばIoT は 2020 年までに 200 億を超える接続デバイスを擁するものとなるであろ       う。これらのデバイス-電子,意匠など-は   5G,4G,3G(第5 世代,第4 世代,第3 世代)などの移動通信規格又は Wi-Fi(無線 LAN)によって無線接続される。自動車,テレビ,冷蔵庫,電灯, エアコン,スピーカ,おもちゃなどのIoT     デバイスは,10 年前には標準必須特許とほとんど関係

がなかった企業が提供している。すべてのビジネ スで人工知能(AI;機械学習とも呼ばれる)が運用される日も近いであろう。そして,AI  はデータを交換し,データから学習するために,通信規格への依存度を高めている。自動車同士も通信を行うようになり,ブロックチェーン(又は分散型  台帳技術)とAI との相互運用性も高まり,常に接続されている。規格は,通常であれば相互通信の統一プロトコル実施に対する関心が重なり合う複数関係者の総意によって作られる。規格によって,さまざまな      ブランドの製品が互いに競合しながら協調して動  作することから,適用性の幅が広がり,消費者の選択肢も増加する。たとえば携帯電話及び集積回路(IC)の製造業者,大学,研究機関が一体となり,3G,4G,5G などの移動通信規格の定義及び普及を進めた。また自動車メーカー,情報技術企業,地方自治体,都市開発業者などは,車車間(V2V),路車間(V2I)通信規格の開発を進めている。ここで述べる規格は技術解決手段であり,ISO,ANSI,NIST などの手続,安全,材料,証明に関する規格とは異なる。技術規格の創設を推進している組織は標準化団体,標準化組織(SSO,SDO)などと呼ばれる。多くの標準化団体は参加者に制限を設けておらず,将来的な規格に関係す る製品の研究,開発,販売に関心を抱く企業が積極的に参加している。それぞれの参加企業は,自社が提唱する技術が規格として採用されるよう競合するだけでなく,その技術的寄与の対象の特許 出願においても競合している。規格の一部となる技術を対象とする特許は,標準必須特許(SEP) と呼ばれる。

標準必須特許が規格に組み込まれると,その所有者には,他人がライセンスなしで標準必須特許を使用することを排除する権能が与えられる。この結果,規格が広く採用され,製品が普遍的に消費されるようになると,標準必須特許権者の影響力は更に増大する。そこで標準化団体は,標準必須特許の影響力をチェックして規格の採用を促進 する目的で,標準必須特許(及び特許出願)を開示し,F/RAND 条項を遵守するよう所有者に義

務づけている。F/RAND 条項を含まない技術は規格の候補者になり得ないものであり,そのよう   な規格が盛り込まれた場合には,不明確性,早期   採用への障壁,コスト増加などが生じるであろう。標準化団体は,かつては少数の大企業が主導し   てきたが,現在活動中の標準化団体は,さまざま  な規模の企業が全世界から多数参加している。同 様に,大小を問わず多くの企業,大学,研究機関   が,それぞれの標準必須特許を積極的に主張して  いる。特許主張団体と呼ばれる,特許権存在の主  張を中心業務とする組織は,広範な採用を目論んで標準必須特許の獲得を進めている。標準必須特  許に伴うF/RAND 条項の遵守は恒久的なもの- 特許権者の名義変更に伴い移転し,標準必須特許 権者が標準化団体を脱退した後であっても消滅しないもの-である。標準化団体の多くは,F/RAND 条項の遵守とは何を意味するのか詳細に述べていないことから,標準必須特許権者と潜在的なライセンシーとの間で,F/RAND 条項が何であるのか見解が相違していても不思議ではない。多くの者にとって F/RAND 問題を訴訟の対象とすることなく標準必須特許のライセンス交渉を進めることは可能であるが,その一方で訴訟に発展するケースも多数あり,その大半は標準必須特許権者が特許権侵害訴訟として提起している。標準必須特許権者が規格実施者に圧力を掛ける場合には,市場へのアクセスを禁止する差止処分に依拠することが多く, これによって規格実施者がライセンスを受けるよ    う圧力を掛けている。しかし差止の影響力は低下傾向にあり,裁判所が定めるロイヤリティ料率も, 標準必須特許権者と規格実施者との間で利益の均衡を図るものとなっている。

Ⅱ.差止は稀なケースであり,「反対」差止が優勢となりつつある

これまで何年もの間,差止は特許権侵害の判断 に基づき「自動的に」命じられていた。しかし 2006 年に米国最高裁判所がハードルを上げた後にすべてが変化し,それに続く近年の標準必須特 許に基づく訴訟でも,差止に関する判決の多くが   変化した。eBay Inc. v. MercExchange における 2006 年の最高裁判所の判決によって,侵害と判断された場合であっても,恒久的差止が自動的に認められることはなくなった。差止が認められる      のか否かは  4  項目テストによって評価される。特許権者は次を証明しなければならない。(1) 回復不可能な被害を受けている。(2)  その被害に対して,法律で認められている救済手段では十分に補償されない。(3)  各当事者が受けた苦難のバランスは原告側に傾いている。(4)  差止によって公共の利益が損なわれない。eBay 判決後,特許権侵害の判断から「回復不可能な被害」が推定される ことはなくなった。予防的差止に関していえば,  何らかの「特別な」救済が認められることは稀で    あり,特許権者はそのような被害が発生するおそ   れを更に強力に証明しなければならない。

更にF/RAND 条項の遵守は,4 項目テストに基づく差止訴訟においても不利な展開となる。標準必須特許権者はライセンス希望者すべてに対し て,公平,合理的,非差別的条件でライセンスを許諾する義務を負うことから,侵害によって発生した損害すべてが,ロイヤリティの支払で適切に賠償されてしまう。更に標準必須特許権者の特許は,それが標準必須なものであり,F/RAND 宣言に基づきライセンスが広く許諾される(可能性がある)という性質から,差止が認められなくても,特許権者が苦難を受ける可能性は低い。これらの要因すべてによって,差止が認められる可能性は大きく減少している。CAFC は

「F/RAND 宣言を伴う特許の権利侵害を対象とする,別個のルール又は分析の枠組み…を創設すべき理由は存在しない」という見解を示しているが,その一方で「F/RAND 条項を遵守する特許権者は,回復不可能な被害の証明が困難になるかもしれない」と述べている(Apple v. Motorola , Fed.  Cir.  2014)。同様に米国の国際貿易委員会(ITC) の調査では, 特許の権利侵害, 有効性, 国内産業保護の判断に基づき排除命令が行われることが多い。しかし 2013 年に米国通商代表部は,Samsung が主張する標準必須特許に対する「政策 上の配慮」に基づき,国際貿易委員会の排除命令を拒否した。Samsung は同社の標準必須特許に基づき,Apple がiPhone を輸入する行為を差し止めるよう国際貿易委員会に主張していたが,この   命令拒否によってSamsung の主張は効力を失った。

特に規格実施者が合理的に活動している場合, 予防的差止及び恒久的差止が認められる可能性は低くなる。裁判所は,標準必須特許権者による差止請求が次のいずれかの状況に該当する場合,差止に賛成しない。1)規格実施者との交渉を試みずに請求している。2)両当事者が依然として交渉中に請求している。3)標準必須特許権者のF/RAND 条項に近い条件を提示することなく請求している。4)標準必須特許のライセンス許諾を単純に拒否した後に請求している。5)悪意に基づく交渉を進めながら請求している。悪意の例として,標準必須特許以外の特許又はその他の知的財産と抱き合わせた提示,標準必須特許以外の特許にライセンスバックの要求,標準必須特許の一部だけであってその他を含まないライセンスなどが   挙げられる。規格実施者が販売する構成部品では なく,第三者による下流側の製品販売価格からロイヤリティを算定するよう主張することは,F/RAND 義務違反を構成する(Realtek v. LSI, N.D. Cal. 2013)。

標準必須特許権者による不正行為があると裁判所が判断した場合,差止の可能性は更に低くなる。eBay 判決に基づく 4 項目テストによると,標準必須特許権者の不正行為が認められた場合には, 回復不可能な被害,特許権者が受けた苦難,そし て公共の利益が損なわれないことさえも否定され    る傾向にある。それと同時に規格実施者は,善意, 勤勉,合理性に基づき行動していた旨の証拠が優位になれば,予防的差止又は恒久的差止を受ける  リスクが減少する。米国裁判所は標準必須特許権者に対して,規格実施者に若干有利と考えられる F/RAND 宣言を行うよう決定する傾向にあるが,標準必須特許に関する法は依然として発展途上にある。欧州では,欧州連合司法裁判所(CJEU) が標準必須特許に関して善意に基づく交渉を進

める道筋を示している(Huawei v. ZTE, CJEU 2015)。裁判所によると,ライセンス希望者が勤勉に行動している場合,標準必須特許権者は,その希望者に対して差止を請求することができない。標準必須特許権者は差止を請求する前に,被疑侵害者に通告し,F/RAND 条件及びロイヤリティに基づくライセンス許諾を提示しなければな   らない。この提示なしで差止訴訟を提起した場合 には,標準必須特許権者の優越的な地位の濫用を構成する。これと対照的に米国では,依然として特定の道筋が示されておらず,特に標準必須特許の場合,差止による救済が認められるケースは稀である。換言すれば。国又は州が異なれば,標準必須特許訴訟に対するアプローチも異なり,標準必須特許権者と規格実施者との間の利益均衡に対する見解も異なる。したがって,ある場所では差止が妨げられる状況であっても,別の場所では差止が認められることもあるので,それぞれの裁判所がこれらの事項にどのような比重を置いている のか,入念に検討する必要がある。

標準必須特許に基づく差止が認められるケースは稀であるが,善意による交渉の努力を積極的に放棄するなど,ライセンシーが過剰な行動を取る場合には依然として差止のリスクを負う。その例としてCAFC は,「侵害者が一方的に F/RAND        ロイヤリティを拒否する場合,又は不当に交渉を遅滞させて同様の結果が生じる場合に      は,差止が正当化されるであろう」と述べている(Apple  v.  Motorola ,  Fed.  Cir.  2014)。 ま  た Microsoft に対する標準必須特許紛争では,ドイツにおいて標準必須特許権者であるMotorola の差止請求が認められた。しかしその後,米国地方裁判所は Motorola がドイツで獲得した差止の執行を否定し,陪審はMotorola がF/RAND 義務に違反していると判断して,1452 万ドルの損害賠償をMicrosoft に支払うようMotorola に命じた (Microsoft v. Motorola , W.D. Wash. 2013)。その 後,第 9 巡回区の裁判所はこの陪審評決を支持している。標準必須特許権者に脅威を与える目的で,規格実施者には「反対(reverse)」差止という手段が

考えられ,これによって過剰に攻撃的な標準必須特許権者に立ち向かうことができる。標準必須特許権者の過剰な攻撃又は理不尽な戦略に対して, 規格実施者が反対差止を請求するケースは増加し ている。この場合の差止は,侵害製品を販売する被疑侵害者に対するものではなく,標準必須特許権者に対するものであることから,「反対」方向の差止となる。また標準必須特許の権利行使を求めるものではなく,契約義務に違反している標準必須特許権者の権利行使を禁止するよう求めるものであることから,同様に「反対」方向の差止となる。規格実施者は,是正すべき不正行為又は直面す

る懸念が存在する場合,それに応じて複数件の反対差止を選択的に求めることができる。米国地方裁判所は,外国の裁判所が決定した差止を実質的に取り消さないことにより,差止命令を行ってい る。米国裁判所は外国の裁判所に対して何ら権限 を持たないが,米国裁判所が標準必須特許権者に対する人的管轄権を有する限り,その特許権者が獲得した差止の執行を禁止することができる。更に米国裁判所は,外国の裁判所において並行審理されている訴訟を中断する目的で反対差止を命じたケースもあるが,そこには  1  つの裁判所がF/

RAND 問題を解決すれば,重複しておりコストが二重に掛かる訴訟の必要性がなくなるという理由も含まれていた。また同様に規格実施者は,標準必須特許権者が F/RAND 条項に基づきライセンス許諾するよう強制する差止命令 -標準必須特許権者と標準化団体との契約に基づく特別手段- の請求に仕立てることも可能である。標準化団体と標準必須特許権者との契約を根拠として,その契約から利益を受ける第三者としての規格実施者は,更に別の反対差止を求めることが可能となり,それによって標準必須特許権者が自身のF/

RAND 宣言に違反して行動する状況を防止することができる。

Ⅲ.F/RAND 宣言におけるロイヤリティ料率のチェック体制の維持

 

世界各国の裁判所が F/RAND 紛争の解決において重要な役割を担っていることに疑いの余地は   ない。ここで更に重要性が増している事項とし   て,裁判所は適切な F/RAND 料率を定めるための枠組みを構築しただけでなく,自身が管轄する 法域を飛び越えて,ある国における特定の裁判所でありながら,複数の国に影響を与える,世界規模で適切といえるF/RAND  料率を定めることが可能であり,それを定める義務があると自 負している点が挙げられる。換言すれば,1 つの裁判所は 1 つの特定国における特許に影響を与えるF/RAND 料率を定めるだけでなく,世界全域のF/RAND 料率も定めており,これは本質的に複数の裁判所の役割を担っているものといえ  る (TCL v. Ericsson , C.D. Cal. 2017; Unwired Planet v. Huawei , UK 2017; Conversant Wireless Huawei , UK  2018)。ここでは米国におけるいくつかの事案を例示しているが,表   1   は裁判所が定めたF/RAND    料率と対象とされる製品の例を示すものである。また上記の図 1 及び図 2 は,標準必須特許権者が提示したF/RAND 料率と,裁判所が適切と定めたF/RAND   料率との,劇的ともいえる大きな差を示すものである。F/RAND       宣言に基づく標準必須特許権者のライセンス条項    は,そのロイヤリティ料率を含めて公平かつ合理       的であること(又はRAND 宣言の場合には,単純に合理的であること)が要求される。「合理的」  なロイヤリティは米国特許法の一部にも含まれて       おり,35  U.S.C. 第 284 条では,「いかなる場合であっても合理的なロイヤリティを下回るもので    あってはならない」と規定することによって損害    賠償の最低額を定めている。標準必須特許は,す  べての販売者が関係市場で競合するためにライセ       ンスを受けなければならないという特有の状況を        作り出しており,たとえばスマートフォン市場は,    すべての製品が 3G 又は 4G 規格 -携帯電話通信を管理する第 3 世代及び第 4 世代の規格- で運用されている。標準必須特許は基本的に,特許主 導によって規格実施者の参入に対する障壁を構築し,標準必須特許のライセンス許諾が望ましいだけでなく,本質的に必要な状況も作り出す。標準必須特許ライセンスの必要性は特有の状況に置かれていることから,裁判所は特許の「ホールドアップ(hold-up)」問題,累積ロイヤリティ(royalty stacking)問題などに対する規格実施者の懸念に理解を示している。

ホールドアップは,規格実施者が特許技術を使用し,その技術を使用した製品を販売する行為に 対して,標準必須特許権者が規格実施者を「ホールドアップ」させる能力を示している。標準必須 特許に該当しない特許であれば,ライセンシーは他の技術を使用する選択肢を有することから, ホールドアップは重要な問題とならない。しかし   標準必須特許の場合,ライセンシーはこれ以外の選択肢を持たない。これは特に,何らかの技術規格が優位な立場を獲得し,すべての企業がその規格技術を実施しなければならない状況が該当す る。移動通信における 3G(第3 世代)及び 4G(第4 世代)規格,そして無線 LAN 通信におけ るWi-Fi 規格などがこの典型例といえる。スマートフォン,タブレット,コンピュータ,そしてテ      レビ,自動車といった現代の電子機器は,これらの(実質的な独占状態でないとしても)優越的な立場に置かれている規格を使用している。ある規格が特定の市場セグメントにおけるすべての製品 に必要な特徴となった場合,標準必須特許ライセンスを持たない企業は市場へのアクセスを失うことから,標準必須特許権者の「ホールドアップ」 は重大な衝撃を与え,競争力に対する脅威となるおそれがある。

規格実施者のもう 1 つの懸念事項である累積ロイヤリティに関して,多くの裁判所は,いくつか      のアプローチの中からトップダウン型(top-down)  アプローチを採用しており,それ以外の裁判所で     もこのアプローチに近い効果を持つF/RAND    料率を決定している。累積ロイヤリティとは,規格    実施者が複数又は多数の標準必須特許権者にロイ ヤリティを支払う必要が生じた結果,すべてを累    積したロイヤリティ総額が多大な負担になる状況 

を意味する。きわめて高く累積したロイヤリティ    は規格実施者のコストを大きく上昇させ,その負担は,規格実施製品の価格を上昇させることに よって消費者に転嫁されるであろう。更に,きわ めて高く累積したロイヤリティは,何らかの統一  規格を第一線に置くという意欲を減退させる。このように供給者に掛かる負担,そして最終的に消費者に掛かる負担は,生産性を低下させ,競争力を損ない,消費意欲を減退させる。この状況は, 規格の実現性又は普及率を脅かすものにもなり得 る。

累積ロイヤリティに対する懸念が正当化されるもう 1 つの理由として,企業は最初に規格を売り込んで製品を販売し,その後,規格及び製品が広く普及した又は優勢になった時点で,そのライセンス交渉を開始する傾向にあることが挙げられる。この「最初に製品,次にライセンス(product-first-license-second)」というアプローチは,ライセンス交渉中に多数の関係情報が標準必須特許権者及び規格実施者の双方に与えられる ことから,いずれにとっても合理的なアプローチ     となる状況は多い。このアプローチは更に,規格    の実現性及び重要性,消費者に受け入れられる価格帯,市場の全体規模,特許発明による付加価値, 市場の方向性及び長期的な持続性などに関する有益な情報を両当事者にもたらす。この反対方向(最初にライセンス,次に製品)アプローチも時には     機能するが,不確実な要因が多く,双方が「消極的」な参加者 -標準必須特許の過小評価を望まない消極的なライセンサーと,その規格が普及す    る又は早期に受け入れられるという証拠がなく過   剰支払を望まない消極的なライセンシー-  という状況になるかもしれない。いくつかの裁判所判決は主にトップダウン型ア

プローチに依拠しており,それ以外の判決でも, 規格実施者が対処できない負担を回避するための チェック手段として,このアプローチに依拠して      いる。2017 年のTCL v. Ericsson において, カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所がトップダウン型アプローチを採用した。トップダウン型     アプローチは単純化すると次の公式で表現される。

 

トップダウン型アプローチによると,裁判所は    最初に,規格実施者がすべての標準必須特許についてのロイヤリティを支払った場合の推定上限値 である「トップ」料率 -すべての標準必須特許についての累積ロイヤリティ料率-を特定する。裁判所は,標準化団体又は標準必須特許権者の予測,(存在すれば)宣言書,標準必須特許製品の利益率,規格が持つ価値,技術標準などを含む, いくつかの要因を考慮してトップ料率を設定する  ことができる。電気通信技術に関するいくつかの 事例では,トップ料率を 5%から 10%の間で設定している。電気通信技術を実施する産業界の場合,10%以下の「トップ」料率は,何百又は何千もの 標準必須特許の中で,きわめて少数又は一握りの特許を保有する標準必須特許権者それぞれが獲得できるロイヤリティ料率は   1%に遠く及ばないことを意味する。この結果,複数の特許が密集する規格の場合,トップダウン型アプローチでは各標準必須特許の価値が著しく低下する。

トップダウン型アプローチは累積ロイヤリティ  料率のチェック体制を維持して確実性をもたらすことから,標準必須特許権者と比較して,規格実施者に有利なものとなるであろう。これが特に当てはまるのは,規格を実施する副次的部品又はモジュールの価格に基づきロイヤリティが計算される場合である。テレビ,自動車,冷蔵庫など,規格と無関係な機能が存在する大型システム製品の場合,このようなアプローチには,規格実施者が受ける更なるロイヤリティ負担も含まれる。

累積ロイヤリティ料率が設定された後,裁判所  は,1 人の標準必須特許権者が保有する特許(又は特許ファミリー)の件数と,特許の総件数とを   比較して,占有率を算出する。図3 から図5 までは, TCL v. Ericsson (C.D. Cal. 2017)において,特定の特許権者が保有する標準必須特許の件数と標 準必須特許の総件数との間で裁判所がどのように 比較したのかを示しており,ここで裁判所は,特    許件数ではなく,特許ファミリーの件数に基づき占有率を計算している。それぞれの占有率は累積 ロイヤリティ料率と積算され,F/RAND   料率の出発点となる数値が算出される。これらの占有率, 算出されたF/RAND 料率,又はその両方について,1 つ又は複数の調整要因に基づく調整が可能であり,これには問題とされる標準必須特許の付  加価値,比較対象となるライセンス,その他の標 準必須特許の強さ又は価値,Georgia-Pacific アプローチに基づく要因などが含まれる。トップダウ        ン型アプローチが採用されない場合であっても,   裁判所はこれをチェック項目として利用すること      が多く,それによって決定されたF/RAND   料率が過剰なものにならないことを確約している。

 
図 3:トップダウン型アプローチ

2G 標準必須特許における Ericsson のシェア-


図 4:トップダウン型アプローチ
3G 標準必須特許における Ericsson のシェア-

図 5:トップダウン型アプローチ
— 4G 標準必須特許における Ericsson のシェア-

裁判所がトップダウン型アプローチを採用する   のか否かを問わず,主要な事案において算出さ れたF/RAND 料率は概して 1%を下回っている。いくつかの事案におけるF/RAND 料率を次の表1 に示す。

標準必須特許権者の多くはこれらの決定で示された料率に失望し,裁判所の決定は規格実施者側に大きく偏向したものであると主張している。標準必須特許資産リストにおけるロイヤリティ料率が 1%を下回る,又は 1%に遠く及ばないケースに加えて,1 つ数百ドルで販売される製品に対する 0.555 から 15 セントの価値は,実質的に標準必須特許資産リストにおいて 0.07%のロイヤリティ料率となる。これらの数値は,多くの標準必 須特許権者が公式に表明している又は見込んでい るF/RAND 料率と比べて非常に低いものである。ロイヤリティ総額が,販売されるユニット数で    はなく製品の価値に基づき算定される場合には, ロイヤリティ料率に加えて,ロイヤリティの基礎   となるものを適切に設定することが重要である。 販売規模が大きな市場においてロイヤリティ基準  が高ければ,ロイヤリティは多大なものとなる。  上述した 5 件の事案のうち 2 件は,最終製品の価値に基づきロイヤリティ料率を算定したケースで  あった。すなわち,200 ドルから 1,000 ドルのス マートフォンをロイヤリティの基礎とすれば,大    半の標準必須特許の実施対象である 1 ドルから 30 ドルの集積回路(IC)と比べて多大なロイヤ

リティが生まれる。このように格差が大きいこと   から標準必須特許権者は,IC /構成部品の供給業者ではなくシステム供給業者に,システムを基礎とする標準必須特許のライセンスを許諾するよう望むことが多くなっている。裁判所がロイヤリティの問題を扱う場合には, 最小販売可能なユニット(SSU)又は最小販売可能な特許実施ユニット(SSPPU)を検証した後に発明の価値配分を定めている。最小販売可能なユニットから更に細分化された小規模のサブパー  ツについて価値配分を定める合には,その発明に

対する正確な寄与度及び価値が検証される。また最小販売可能なユニットから更に細分化された部分について価値配分を定める場合には,発明者が発明したもの又は既存技術に追加されたものと, ほとんど関係を持たない又はまったく無関係であ  る,構造,処理,運用などの効果及び価値も考慮 の対象外となる。F/RAND 問題に関して判決をした裁判所すべてが価値配分の紛争を扱ったわけではなく,表 1 に示す事案の大半は,分離可能な構成部品ではなく完全なシステムに関するもので あった。しかし,標準必須特許権者が投資の見返りを求め,規格実施者がロイヤリティの負担軽減を求める構図は変わらないことから,今後のF/RAND  紛争では,最小販売可能なユニット,そし て適切な価値配分の問題が争点となっていくであろう。 

Ⅳ.契約違反の主張につながる F/RAND 義務及び標準化団体規則の強制力
 

規格実施者が特許権侵害の主張に対抗する場合には,一般的な防衛策とは別に,標準必須特許権者の契約違反を主張するケースが増加している。規格実施者の多くは標準必須特許権者との F/RAND 条項を伴う契約当事者ではなく,その大半は標準必須特許権者と標準化団体との間に存在する者,又は標準化団体の参加者である。しかし規格実施者は,標準必須特許権者と標準化団体との間のF/RAND 義務契約に関して,その契約から利益を受ける第三者として権利行使が可能となるケースが多い。このような契約に基づき規格実施者は,標準必須特許権者が F/RAND 宣言又はその他の標準化団体の規則若しくは条項に違反している場合,その標準必須特許権者の契約違反を主張することができる。ただし標準必須特許権者 と標準化団体との契約では,準拠法として特定の国,州,法域の法律を指定していることが一般的である。たとえば 2G,3G,4G,5G といった携帯電話通信規格の各世代を推進している欧州電気通信標準化機構(ETSI)は,F/RAND 条項がフランス法によって管理されると規定している。その他の国の裁判所がETSI のF/RAND 条項を解釈する場合には,フランス法を適用し,フランス における過去の判例に基づき解釈しなければならない。

規格実施者にとって契約違反の主張は,攻撃手段が得られるだけでなく,それを管理する契 約法に基づく救済も可能としている。したがって    規格実施者は,標準必須特許権者の不正行為から生じた損害賠償を請求し,代理人費用の返還を求め,差止命令を獲得し,標準必須特許権者によるライセンス許諾又は契約遵守を強制することが できる。たとえばMicrosoft v. Motorola (W.D. Wash. 2013)においてMicrosoft は,標準必須特許権者であるMotorola が同社の特許に附帯する F/RAND 義務に違反したと主張して,Motorola を提訴した。陪審は,代理人費用 350 万ドル及びMicrosoft が負担した 1,100 万ドルの経費を含む,総額 1,450 万ドルの損害賠償をMicrosoft に支払うよう命じた。この経費は,ドイツにおい  てMotorola の差止請求が認められたことから,Microsoft の欧州における業務地をドイツからオランダに移転するために発生していた。

規格実施者は,代理人費用及びビジネス上の経費に加えて,販売及びビジネスチャンスの損失など,標準必須特許権者の不正行為によって発生したその他の損害も主張することができる。ただし規格実施者は,その他すべての契約違反に基づく主張と同様に,その因果関係及び現実の損害を証明しなければならず,関係性が低い損害,推論的な損害を回復することはできない。また権利行使のための手続は時間及び資源を消費するものであり,ある程度の不確実性を伴うであろう。

また交渉上の立脚点から見ても,規格実施者は契約違反の主張によって攻撃手段が得られ,標準必須特許権者からF/RAND 条項を獲得するための交渉を大きく前進させるものとなる。確実性を伴い早期解決を図ることは,時間及び資源の浪費を回避し,そして多くの場合,製品販売に必要な標準必須特許のライセンスが得られない間のビジネスチャンス損失という,更に重大な悪影響を回避することができる。いくつかの裁判所では標準必須特許権者の契約違反から生じた損害賠償を認めているが,その反対に実質的な契約違反であると判断せず,損害賠償をほとんど認めない,又はまったく認めない裁判所もある。しかし結果的に回復手段が得られなかったとしても,それは完全な損失というわけでなく,特に規格実施者がF/RAND 条項を獲得できれば,それは長期的な費用節減につながる。規格実施者は自身が望む結果を達成するために,利用可能な選択肢の軽重を見極めて,これらの主張を交渉及び訴訟の両面におい    て有効的に活用する必要がある。

標準必須特許権者に対する反トラスト法違反の主張又は調査のケースは,特に政府当局が主体となって開始するものが,一般的になっている。反   トラスト法に基づき個人的な権利行使が認められ るためのハードルは高い。これと対照的に政府当  局による権利行使の場合には,罰金の可能性,社会的な評価ダウン,既存及び交渉中のライセンスに対する影響など,標準必須特許権者な大きな圧力を受ける。この典型的な例として連邦取引委員会は,電気通信関連の標準必須特許を多数保有するQualcomm に対する調査を請求し,現在も手続が係属中である。欧州,台湾,中国,韓国における手続では 7 億ドルから 10 億ドルの罰金が科され,これらの決定の一部については現在も不服申立手続中となっている。標準化団体も,ホールドアップ,差止,F/RAND 問題などに関する自身の規則を強化している。米国電気電子技術者協会(IEEE)の 2015 年度特許政策方針では,最終製品の供給業者を優遇して構成部品供給業者を排除するのではなく,誰にでも,すべての者にライセンスを許諾するよう,標準必須特許権者に要請している。更にIEEE  の 2015 年度政策方針では,標準必須特許権者がライセンシー希望者に対して差止請求する状況を    拒否している。またIEEE の 2015 年度政策方針では,「合理的なロイヤリティ」が次を基礎とす     るものであると定義している。(1)「最小販売可   能な準拠実施対象(smallest saleable compliant implementation)」。(2)標準必須特許すべての全体価値から相対的に見た,ある標準必須特許がそ の実施対象に寄与する価値。(3)既存のライセンス。その他の標準化団体も,標準必須特許及び規格実施者にとっての追加的な手引となる新たな政策方針を制定し,その実効化を進めている。したがって,争点とされる標準必須特許,そして関係する標準化団体の規則によっても状況は変化するが,規格実施者は追加的な訴訟理由を得ることが できるかもしれない。

Ⅴ.おわりに

規格実施製品は至るところに存在し,標準必須特許のライセンスは必要不可欠となり,その紛争を避けることは困難になっている。いくつかの裁  判所判決では,標準必須特許の紛争解決及びライセンス条項設定のために似通った枠組みを構築し ており,標準化団体は構造化された規則を定めている。これらの状況は,いずれも規格実施者が標準必須特許関連の紛争に対処するためのツールを提供するものである。現在,標準必須特許権者の多くは,見返り額が減少しており,標準必須特許の権利行使に関する規則が強化されるという逆風に晒されているが,このような制約の中で自身の標準必須特許の権利を行使してライセンス交渉を進めなければならない。標準必須特許は公平,合理的,非差別的(F/RAND)条項の対象とされる ことから,各企業は F/RAND 条項が何を意味するのか理解することによって,標準必須特許ライセンスの実行が可能となり,標準必須特許実施製品を確実に販売することができる。近年における新たな「規範」として,製品販売に対して差止が認められる可能性の低下,F/RAND 条項を遵守しない行為を阻止するための「反対」差止請求の利用可能性,そして標準必須特許権者に対して契約違反を主張する可能性などが挙げられる。しか し特許権者は,依然として既成概念から飛び出して事物を考察し,特許を規格から逸脱させ,標準必須特許に対する,標準必須特許以外の特許及びその他の知的財産の底上げを図るであろう。一部の標準必須特許関連の訴訟は不服申立の余地が残されており,不確実性は依然として解消されてい ない。しかし,近年のいくつかの判決にみられる共通化から,これまで以上に境界線が明確になってきた。ゲームのルールが明らかになることによ     り,標準必須特許権者及び規格実施者の双方が F/RAND 条項について一貫した行動を取ることが可能になり,それによって公平な訴訟,合理的な交渉,被差別的な扱いが可能になるのである。(原稿受領日 平成 30 年 6 月 28 日)

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Originally printed in AIPPI Japan in December 2018. This article is for informational purposes, is not intended to constitute legal advice, and may be considered advertising under applicable state laws. This article is only the opinion of the authors and is not attributable to Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP, or the firm’s clients.

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